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不測の事態における預金の払出しに関する考え方について

Ⅰ はじめに

預金の払出しに当たっては、顧客の財産保護の観点から、原則として預金者本人の意思確認が必要となる一方、高齢化率が上昇するわが国においては、認知判断能力の低下した高齢顧客への対応を強化・改善するとともに、高齢顧客の様々な課題やニーズに対応し、顧客本位の業務運営に取り組んでいくことが期待されている。

かかる状況のもと、2020年8月5日に金融庁金融審議会市場ワーキング・グループが公表した報告書において、高齢顧客との取引および高齢顧客との取引における代理取引に関する指針策定について言及があったことを受け、全銀協においては、2021年2月に「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(公表版)」(以下、「金融取引の代理等に関する考え方等」という。)を取りまとめた。

この「金融取引の代理等に関する考え方等」は、主に預金者本人が高齢顧客であり、認知時判断能力がない、または一部低下しているケースを念頭に整理したものであるが、他方で、預金者本人の認知判断能力に問題はないと想定されるものの、いずれかの事由により、親族等が取引を申し出る場合における代理等に関する考え方は、必ずしも明らかとはされていない。

ここで、銀行実務においては、預金者本人に突然の病気や事故等の不測の事態が生じた結果、意識不明の状態になり、親族等が預金者本人の口座から医療費・介護費等を払い出したいと申し出るケースは日常的に生じている。このような場合、成年後見制度の利用を案内することが原則として考えられる一方、申請には時間を要するため、人道的観点から、払出しに応じることも想定される。

この点、金融庁が2021年8月31日に公表した「2021事務年度金融行政方針」においては、「不測の事態が生じた際における預金者の払出しについて、対応の着眼点等の整理や周知が進むよう、引き続き業界の取組みを後押しする。」とされている。

以上を踏まえ、本書は、銀行が無権代理人から預金者本人に突然の病気や事故等の不測の事態が生じたとして、預金の払出しの申し出を受けた際の判断のポイントを整理するものである。

Ⅱ 状況・場面設定

預金者本人に突然の病気や事故等の不測の事態が生じた結果、意識不明の状態になったとして、代理権のない第三者(無権代理人)が預金者本人名義の預金口座からの預金の払出しを求めて来店した状況・場面を想定する。

このため、預金者本人の法定代理人(成年後見人等)や任意代理人が選任されていることを確認したケースでは、各行所定の手続きに沿って対応することとし、本書の対象外とする。

また、預金者本人の認知判断能力が低下しているケースでは、全銀協「金融取引の代理等に関する考え方等」における整理を踏まえた対応が想定されるほか、繁忙や足腰の不調等により来店が困難なケースでは、代理人指名手続等を通じて預金者本人の払出し意思の確認が可能であることから、いずれも本書の対象外とする。

Ⅲ 判断のポイント

銀行が上記Ⅱ.の状況・場面において、人道的観点から、預金の払出し依頼に応ずるうえでは、全銀協「金融取引の代理人に関する考え方等」の「Ⅰ.2.⑸無権代理人との取引」を準用することが考えられ、具体的には、以下のポイントにもとづいて判断することが考えられる。

1 預金者本人の状態の確認方法

・預金者本人の状態について、例えば、医療機関等に対して銀行から問合せを行ったとしても、個人情報保護の観点から回答を得られないことが通常である。すなわち、預金者本人が払出しの意思表示ができない状態であることを、銀行が正確に把握することは容易ではない。

・このため、銀行は、多くの場面において、依頼人である無権代理人からのヒアリング内容にもとづき預金者本人の状態を推定することとなるが、この際、医療機関等が依頼人である無権代理人に対して提供した診断書の写し等を徴求することで、預金者本人の状態を客観的に確認・把握可能となり、預金払出しの必要性や緊急性の判断の参考となると考えられる。

2 依頼人の範囲

・依頼人の属性(預金者本人との関係性)に応じて、それぞれリスク評価を行い、払出し依頼に応ずるべき依頼人の範囲を限定することが考えられる。

3 対象預金の範囲

・取引の対象となることが想定される預貯金の範囲は、まず、解約等を要せずに払出しを行うことができる、普通預金が考えられる。

・外貨預金等の金融商品取引法の対象となるリスク性金融商品を対象に含めることも想定されるが、価格変動に伴う現状回復の困難さ等から、より慎重な対応が求められる。

4 資金使途の範囲

・資金使途については、顧客本人のために必要な資金であることが明らかである必要があり、医療費や施設入居費等が想定される。

5 金額上限・回数上限の設定

・取引の性質上、取引可能な金額および回数に上限を設けることが考えられる。

6 出金方法

・銀行としては、上記「4.資金使途の範囲」に留まらず、払い出された預金が、実際にその使途のために充てられるかを考慮する必要があり、これを担保するために、本人の預金口座から費用請求者への直接払いを基本とする。

7 払出しに応ずる期間に対する考え方とその他制度への引継ぎ

・無権代理人に対する預金の払出しにどの程度の期間応ずるか、という点は、預金者本人の状態やその環境の変化を踏まえて判断されるべきものであるが、いずれにせよ、当該払出しが極めて限定的な対応であることを依頼人である無権代理人に理解いただくことが重要となる。

・この点、取引を行う際に、成年後見制度(審判前の保全処分を含む)の利用を案内することや、司法書士等の専門家を紹介することが考えられる。

・また、各行独自の代理人制度や、財産管理サービス等があり、預金者本人の事情に適したサービスを案内可能な場合は、そうした手続きを案内することも考えられる。

 

2022年5月16日 一般社団法人全国銀行協会

 

高齢社会対策大綱の策定のための検討会(第3回)参考資料より