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令和4年度 過労死等に関する実態把握のための労働・社会面の調査研究 重点業種の事業場ヒアリング調査(建設業・IT産業)報告書

 

建設業においては、顧客都合の納期が強い影響力を持っていることが見受けられた。この納期厳守の要求に、自社では制御することができない悪天候、資材の搬入の遅れ、他社のミスなどの外的要因が重なることで、所定外労働につながっている様相が見受けられた。所定外労働の原因となる繁閉の差を減らすために、完工ではなく着工を要件とすることで繁閉の差を減らせる※との意見や、人員不足の改善の為に業界として不人気状況の改善が必要で、特に若手の採用と定着に課題があるとの声が聞かれた。適切な発注・受注や工期設定のために国が定めた各種ガイドラインは建設業界内部ではよく認知されているものの、業界外部である発注者にはあまり知られておらず、これが無理のある納期設定と所定外労働に繋がっている可能性が示唆された。従業員のメンタルヘルスケアへの取組としては、従業員とのコミュニケーションを重視していることが見て取れた。ヒアリング対象の中には所定外労働がほとんど発生しない事業場もあり、発注者との関係性が構築され、自社のスキルなども発注者が把握していて、対応の困難な依頼はされない事例もあることが伺えた。

IT産業においても建設業と同様に顧客都合の納期が強い影響力を持っていることが見受けられた。納期に間に合わせるため、人員が業界内で奪い合いとなっている様相が見て取れた。また、人材の充足が重要な課題となっており、人員の育成などの重要性が示唆された。人員の知識や能力によって業務量が大きく異なる現状の下で、従業員の業務負荷を労働時間以外の側面からどのように評価するかが管理上の問題点となっている。また、発注者側の問題点として、発注段階で希望する発注物の仕様を正確に記述することが難しく、途中での仕様変更が度々発生していた。仕様変更の認識についても、発注者にとって些細な変更とみなすものが、受注者からみると大きな変更に相当するなど、専門領域であるが故の発注・受注の難しさが見て取れた。適切な発注・受注や納期設定のために国が定めた各種ガイドラインについては、「今回のヒアリングで初めて知った。」との声がヒアリング対象者から聞かれ、更なる普及策の必要性が見て取れた。従業員のメンタルヘルスケアへの取組として、新たにストレスチェックの実施や、産業医等への委託を模索する動きが見られた。

今回のヒアリングにより、繁閉の差などの業務の性質、発注者都合、人員不足、外的要因が所定外労働に繋がっていると考えられた。特に発注者都合によるものについては一企業や事業場内部での対策だけでは改善が困難なものであり、過重労働の改善のためには社会全体で取り組んでいくことが必要であると考えられた。

※例えば公共工事においては年度末までの完工を要請する発注が多く、年度末の繁忙期に繋がっている実態がある。完工ではなく着工を要件とすることで繁閉の差を緩和することが期待される。

 

令和4年6月

労働安全衛生総合研究所 社会労働衛生研究グループ

全文は厚生労働省HPから閲覧できます。「過労死等防止対策に関する調査研究について」

 

※11月は「「しわ寄せ」防止キャンペーン月間」です

〜下請等中小事業者への「しわ寄せ」を防止し「働き方改革」を推進するため、周知・啓発活動を集中的に行います〜