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持続的な賃金上昇や家計の所得向上はどのように実現していくことができるか

我が国は構造的な人手不足下で、労働需給面から賃金が上がりやすい局面にある。今後、需給面からは、引き続き賃金押上げ方向での影響が続くことが予想されるが、これに加えてより構造的、持続的な賃金上昇を実現していくには、大別して以下の二つの点に注目していくことが重要である。

第一に、生産性の上昇を伴う賃金の上昇が鍵となる。このための一つの方法は、労働市場の流動化である。自発的な転職が活発になれば、労働市場の資源再分配機能が発揮され、成長分野への人材移動にもつながり、生産性上昇が加速することから、経済全体の賃金上昇率も高まりやすくなると考えられる。自発的な転職を阻害する要因を分析した結果、子育て中であることや、配偶者の労働所得や資産所得などの収入源がなく、転職に伴う所得面でのリスクを抑えにくいこと、過去の転職経験や自己啓発経験を有さないことなどが要因として明らかになった。このため、自発的な転職を促していくには、在職中のリスキリング支援や専門家による相談体制の整備、女性活躍・男女共同参画の推進や資産形成支援を通じた家計の稼得経路の幅の拡大などが有効と考えられる。

なお、リスキリングによる能力向上支援は、転職につながるか否かに関わらず、我が国全体の人的資本の蓄積となり、生産性上昇に直結しうる施策と考えられる。後述するように、我が国の人的資本ストック水準は他の先進諸国と比べて低いが、各人が持つ知識やスキルには正の外部性があることから、個々の企業による意思決定では過少投資になる可能性があり、官による後押しの余地がある。また、リスキリングの現状や生産性との関係についての正確な分析を可能にするようなデータの蓄積が期待される。

第二に、追加的な就業希望を叶え、就業者数・就業時間の両面から、労働供給の増加を後押ししていくことが引き続き課題である。このためには、昭和の時代に形成されたいわゆる「日本型雇用慣行」から離れて、ジョブ型雇用を拡大していくことも有効と考えられる。これにより、これまで日本では、長い勤務時間の下で多様なタスクに対応できる者に対して賃金の上乗せを行う、いわゆる「長時間労働プレミアム」があったが、こうしたプレミアムの縮小につながることが期待される。「長時間労働プレミアム」が低下すれば、勤務時間に制約がある子育て中の女性の労働所得の減少を緩和したり、長時間の就業が難しい高齢者の活躍を促すことから、追加的に就業を増やしたいと思っている女性や高齢者の希望が実現しやすくなり、家計所得向上に効果的と考えられる。また、職務内容が明確な雇用形態であるジョブ型雇用の広がりは、自発的な労働移動の促進とも整合的である。

今回の白書では、これらの点に加えて家計の資産所得向上の重要性にも触れている。我が国では欧米と比べ、家計部門の所得に占める資産所得の割合が低い。我が国の雇用慣行の実態が変化し、賃金カーブのフラット化が進むにつれて、雇用者が予想する生涯所得の稼得パターンも変化している。こうした変化の下、貯蓄から投資への移行を進め、若年期からの資産形成を支援していくことも大切である。

 

令和5年度年次経済財政報告より