保健衛生業における腰痛の予防について
現状
職場における腰痛発生件数は、昭和53年をピークとして長期的に減少したものの、社会福祉施設や医療保健業が含まれる保健衛生業においては、集計を開始した平成5年以降、発生件数が増加を続けています。また、保健衛生業の腰痛発生率(死傷年千人率)は全業種平均(0.1)を大幅に上回る0.25であることからも、介護・看護作業における腰痛予防対策の推進が重要な課題となっています。
経緯
▶︎職場における腰痛予防対策指針の改訂(平成25年6月/厚生労働省労働基準局)
平成25年に「職場における腰痛予防対策指針」を改訂し、介護・看護作業における抱上げに関して「移乗介助、入浴介助及び排泄介助における対象者の抱上げは、労働者の腰部に著しく負担がかかることから、全介助の必要な対象者には、リフト等を積極的に使用することとし、原則として人力による人の抱上げは行わせないこと。また、対象者が座位保持できる場合にはスライディングボード等の使用、立位保持できる場合にはスタンディングマシーン等の使用を含めて検討し、対象者に適した方法で移乗介助を行わせること。」と示しました。
▶︎平成27年労働安全衛生調査(実態調査)報告(平成29年3月/厚生労働省政策統括官)
「医療、福祉」の事業所のうち、腰痛予防対策指針の内容について知っている事業所の割合は49.8%と低いです。また、介護や看護等での人の抱え上げ作業に従事する労働者がいる事業所のうち、腰痛予防対策に取り組んでいる事業所の割合は88.5%となっていますが、対策の取組内容をみると「リフト等の介護機器・設備の使用により負担軽減を図っている」は22.3%、「スライディングシート・ボードを使用させている」は23.8%と低調です。
▶︎労働災害が増加傾向にある業界団体への協力要請(令和3年9月/厚生労働省労働基準局)
三原副大臣から、労働災害の増加が特に顕著な陸上貨物運送事業、小売業(食品スーパー及び総合スーパー)及び社会福祉施設(介護施設)の関係事業者団体に対し、労働者が安心して安全に働き続けられる環境作りに向けた積極的な取組について、協力要請を行いました。社会福祉施設(介護施設)の関係事業者団体に対しては、特に多発している介護作業中の腰痛や転倒による災害、高年齢労働者の労働災害の防止対策に重点的に取り組むことを要請しました。
▶︎転倒防止・腰痛予防対策の在り方に関する検討会 検討事項の中間整理(令和4年9月/厚生労働省労働基準局)
令和4年に転倒防止・腰痛予防対策の在り方に関する検討会にて取りまとめられた「検討事項の中間整理」において、業種や業務の特性に応じた取組として「介護職員の身体の負担軽減のための介護技術(ノーリフトケア)や介護機器等の導入など既に一定程度の効果が得られている腰痛の予防対策については、積極的に普及を図るべき。」と示されました。
▶︎第14次労働災害防止計画(令和5年3月/厚生労働省労働基準局)
労働災害防止計画は、労働災害の防止のために、国、事業者、労働者等の関係者が重点的に取り組む事項を定めたものです。第14次労働災害防止計画は、2023年度を初年度とする5年間を対象としたもので、労働者の協力を得て事業者が取り組むこととして「職場における腰痛予防対策指針を参考に、作業態様に応じた腰痛予防対策に取り組む。」、その達成に向けて国等が取り組むこととして「介護職員の身体の負担軽減のための介護技術(ノーリフトケア)や介護機器等の導入など既に一定程度の効果が得られている腰痛の予防対策については、積極的に普及を図る。」が盛り込まれるとともに、計画の目標として「介護・看護作業において、ノーリフトケアを導入している事業場の割合を2023年と比較して2027年までに増加させる」などが掲げられています。
厚生労働省HP「保健衛生業における腰痛の予防」
ボディメカニクス:最小限の力で介護を行う介助技術(匠)